笑門来福ジャワ島日記

5児の母のインドネシア通信
  [ 陳情書 その後 ]
2008-07-31(Thu) 17:17:32
一ヶ月前にここに書いた陳情書は、「運動会に授乳室を設置してほしい」というお願いだった。

例年お願いしているが、望みは叶うことなく流れているらしい。
ネックになっているのは、「溜まり場にならないか」ということ。教室は冷房完備だからだ。

仕方なく、育児サークル名義でちょっと離れたところにある幼稚部の一室を借りているが、不便なため、利用者はほとんどいない。授乳をしなければならない母親は、救護室の隅で小さくなって済ませているらしい。

今年は、実行委員会宛の文書でお願いしてみた。
趣旨は、育児サークルが専用の授乳室を借りるのではなく、主催者として一般開放の授乳室を設置してほしいということ。
ただ、実質的に利用者のほとんどはサークル員になってくるので、サークルの責任として「マナーの厳守を部員に周知徹底する」など4項目を上げた。

第1回目の結果はNO。理由ははっきりしなかったが、なんとなく分かる気がした。

当地の運動会は、今回で31回目。在留邦人の結束が固く、参加者も多かった「古き良き」時代の運動会をそのまま引き継いでいる。規模を維持するため、各組の監督をはじめ実行委員会のみなさんは、各競技の参加者集めや企業からの協賛品集めに多くの精力を注ぎ込まなくてはならない。
それでなくとも、実行委員はほとんどが1回限りで、何もかも初めての経験なので、見直しや改革をするまでの余裕がない。とにかく今年を無事終わらせるだけで、精一杯なのである。
海外駐在員の激務をこなしながら、夜の会議に出て、周囲に頭を下げて回る。そんな役目を引き受けて下さっている方々に、それ以上無理は言う気にはなれなかった。

そして、無理を言えない理由はこっちにもあった。
当初の懸念であった「目的外の使用」を防ぐために、私は、設置にあたっての条件の中に、係員の常駐をあげた方がよいと考えていた。が、サークル員にそこまでの気持ちはなかった。たとえ30分ずつでも、当番をするのは無理だと言う。リスクを負わずに要求だけを通すのは難しい。

そして何より拍子抜けしたことに、いざ参加者を調べてみると、乳幼児の参加者が少なかった。
地域の運動会とはいえ、メインはどうしても学校。若い家族にとって、暑い中、わざわざ乳児を連れて来る意味はない。参加する乳幼児のほとんどは、学校や幼稚園にきょうだいがいる子ばかりだった。それでなくても鳥フルの影響か、乳幼児連れの駐在員は減っている。
結果、参加者の中で授乳中の親子はわずか2組だった。

調和や伝統を重んずるあまり、役員の負担ばかりが増しているコミュニティ。
そんなコミュニティに貢献も期待もせず、もはや帰属意識さえ薄いと思われる若い世代。
その結果、役員世代の負担はますます大きくなる悪循環。

日本でさえそうなのだから、無理もない。ほとんどの人が、ここには数年しかいないのだ。

が、しかしだ。

必要な人が一人でもいる限り、そのニーズに応えるのが代表者の務めだと、私は思っている。
乳幼児の親向けの講座では、託児をつけるのが主催者の義務。車椅子の子が入学するなら、スロープをつけるのが学校(その母体となる市町村)の義務。
それはいろんな人を認め合うコミュニティの、共生の基本だと学んできた。

それから、やりとりすること数回。
結果的に、私が責任者になることで「救護室を授乳に利用できる」ということになった。つまり、今までの現実を公認する形である。椅子もついたても何にも要らないから(そりゃあったらあったでうれしいけど)、とにかく掲示をしてくれとお願いした。

「ここで授乳やオムツ替えもできます」と。

紆余曲折したせいで、間に入ってくださった学校の先生や実行委員長さんには、ずいぶん手間をかけた。夜の会議だろうがなんだろうが、お願いする以上私自身が出るべきだったと反省している。

幼稚園の部屋はもう借りなかった。
前例や規定が重んじられるこのコミュニティで、たとえ間借りでも、「授乳室が設置された」という事実が作りたかった。それさえあれば、いつか自立したママ達が乳幼児を連れてこの町に来た時に、独立した授乳室にすることだってできるかもしれないから。
もちろん、それその当のママ達が選んでいくことだけど。

ただ1枚の案内掲示。誰も気づかないような小さな小さな一歩を残して、運動会は終わった。

バル机上
領地拡大にはこのくらいの大胆さが必要か
PCを覗き込んでいてそのまま眠ってしまった5号
も、もっすごジャマ
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  [ 雇用主の器(9) ]
2008-07-25(Fri) 07:53:58
今さら遅いかもしれないが。
ずっとブログに付き合ってきてくださった方ならご存知だと思うが、うちの運転手さんにはいいところもいっぱいある。

明朗活発。日本語、英語も堪能。賢くてよく気が利く。子ども好き。面倒見がよい。働き者。人懐こい。押しが強い。運転がうまい。運転手仲間の人望も厚い。生まれも育ちもこの町なので、道に詳しい、友達が多い、いろんなところに顔が効く。

そして反面欠点もある。
当然ながら、そうじゃないインドネシア男性もたくさんいるので、誤解のないように。

気分屋で、それがすぐ顔に出る。気が荒い。見栄っ張り。自己主張が強い。すぐ言い訳をし、非を認めない。遊び好きで金遣いが荒い。ねだり癖がある。ちょっと手癖が悪い(と思われる)。

まさに「うちのご長男(しかも思春期)」なのである。

優しくすれば増長する。厳しくすれば反発する。あまり雇い易い運転手とは言えないかもしれない。
外国での暮らしにも人を雇うことにも慣れていない庶民の我が家には、正直ちょっと難易度の高い相手だった。
が、雇う側にそれなりの器があれば、彼の長所を生かしてうまく雇っていけるのではないかと思う。

そう、器、つまり雇用主の度量というか。←やっとタイトルとつながった、ほっ

雇用主の目線ひとつで動くように教えていくのも、度量。
彼の足枷を外すリスクを恐れず首にするのも、度量。
前雇用主のように大金を気前よく与えるのも、度量。

私は、向こうが望まない限りは、できれば首にしたくない。
おそらくは我が家を組しやすい雇用主だと思っていた彼が、「こりゃあなどれない」と思うまで、それでも「この人たちのために働きたい」と思うまで、しっかりつきあっていこうと思っている。
(実はばにらよりタチの悪いSかも)

コメントや直接、いろんなアドバイスをくださったみなさん、ありがとうございました。いろいろ考えさせられました。いろんなご意見を参考にしつつ、我が家なりの器の形をこれからも探していくつもりです。

さて。

ことの発端となった週一の買い物からかれこれ3週間、昨日がその日だった。今度は見慣れない洗剤を見つけてしまった。
「これ何?」とメイドさんに聞くと、自分達の服を洗うためのものだという。

あう。今度はそっちかい。

メイドの分の洗剤は、雇用主が買うのが普通なのか?どのくらいのものをどのくらいの頻度で買うのか?
また情報集めなきゃだな。やれやれ。

人を雇うって、ホントたいへん。修行は続く。
<でもこの話題はようやく終わり。長い間私の愚痴にお付き合いくださりありがとうございました。>

更衣室にて

バテッィク屋の更衣室にて
分かり合うのにことばは要らない人たち
子どもの器は底知れず
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  [ 雇用主の器(8) ]
2008-07-23(Wed) 08:59:01
先週末、我が家で2号の所属するサッカー部のBBQをした。

BBQをする時はいつも、運転手さんにお肉を買ってきてもらう。なんでも屠殺場に併設されたパサールで、ホテルやレストランに卸されるものを分けてもらうらしく、柔らかくてすごくおいしい。インドネシアママに聞いたら、「カードがないと入れない」有名なところだと言われた。

今回も頼んだら一度は快諾したものの、翌日暗い顔をして「ママさんがスーパーで買うのじゃダメなの?」と言ってきた。私もスーパーの肉に挑戦したことはあるが、硬くてくさい。調理だとごまかしが効くが、焼肉だとおいしくない。
「何で?」と聞くと、「そこの肉はスーパーよりちょっと高い。手書きの領収書しかもらえない。それを見たらママさん、また『高い』って怒る。僕はそれが怖い。」と言われた。

私は守銭奴か。

そこで、予算と相場から考えて、このくらいまでなら出す、と具体的な金額を提示した。すると、急に安心して、「それだけあったら大丈夫」と、買い物に行ってくれた。持って帰ってきたのは、おいしいお肉と、予算よりもずいぶん低い金額の領収書。

そしてその日は、仕入れから始まって、肉の下ごしらえ、火おこし、肉焼き、火の番、あとかたづけに至るまで、いつものようにせっせと働いてくれた。

終わった後、業務外の仕事なのでチップを渡す。「Hさんのおかげで、みんな喜んでたよ。」と感謝の気持ちも伝える。彼も、満足そうに帰っていった。

だがしかし。

実はこれが、リスクを伴う、もしくは高いスキルを要求される付き合い方なのだと悟った。
運転手には運転だけをしてもらう、行き先を指示する以外はほとんど口も利かないという付き合い方の方が、きっとトラブルにはなりにくい。

来イ当初、文字通り右も左もわからない私達に、彼はとても親切だった。
要るものを探してきてくれたり、街を案内したり、習い事を紹介してくれたり、運転手の域を越えてつきあってくれた。その裏で、紹介先からマージンを取っていた。

そのこと自体は、単純に悪いことだとは言い切れない。マージンは、ここでは潤滑油のように必要でありふれたことだし、私たちが騙されていたわけではない。
ただ私たちの、「わからないから任せるわ」といった何もかもを彼に頼る態度が、それ以上の隙を与えたのだと思う。
私たちはきっと彼に甘えすぎた。だから彼も甘えてきたのだ。

双方の性格や環境から、「運転だけのおつきあい」は無理だろう。ならば、こういう付き合い方をしていく以上は、こちらも情報収集し、先を読み、的確な指示をしないといけない。そのためには、語学力も知識も経験も必要だ。その労力を惜しんで任せるなら、ある程度のリスクは覚悟しないといけない。

情報を制す者が場を制す。
相場、いろんな手段、周囲の評判等、情報量ではジモティの彼にはかなわない。でも、最終的に判断を下すのはこちら側だ。そのことは、彼も充分に承知している。

かくして私は今や、給油の度に燃費をチェックし、頼んだ買い物には可能な限りついていき(これは私の好奇心のせいでもあるが)、こんなには出せないと言い張って、セレブにあるまじき守銭奴ぶりを発揮している。

火おこし
お庭でせっせと肉を焼くHさん(左)と
呼ばれて戸惑いつつも手伝っている友達の運転手さん
運転手は雇用主の家には入らないのが普通なので

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  [ 雇用主の器(7) ]
2008-07-21(Mon) 15:06:06
そして運転手さんの方は、私にぶちまけてスッキリしたのか、私が絶対に口を割らないとあきらめたからか、その後いつものようにコロッと機嫌が直った。転職の話も、全くしなくなった。

直ったどころか、上機嫌になった。

つい先週、彼の娘が小学校に入学した。それを待っていたかのように、バイクを買うのだと言う。
幼稚園の間は、通園に奥さんのバイクが必要だったが、小学校は近くて徒歩で行ける。だから、奥さんと自分の今のバイク2台を売って、新しく大きなバイクを買いたいらしい。

それでもお金が足りないので、また前借りできないかと言ってきた。

ありえん。「前の借金も返し終わってないのに、それは無理でしょ。」と断る。
さすがに本人もダメもとだったらしく、あっさり引き下がった。今のバイクだって、決して古くはない。奥さんも買い替えに反対だと言う。

それであきらめるかと思っていたら、結局銀行でローンを組んで購入した。
彼の私生活に介入する気はないが、面識のある奥さんや小さな娘さんを思うと、気の毒になる。

聞いてみると、月々の返済額は基本給を越えている。貯金を取り崩して返していくから大丈夫と言う。それでも足りなかったら、奥さんの実家がマイホーム用にととってくれている牛を売るからいいんだと言う。

ん?これって単なる無計画な浪費癖なのでは?

そこでにわかに、先日口論の中で出た彼の一言が頭に浮かぶ。
「前の雇用主は月に○○ルピアくれてたけど、噂になったりしなかった。どうして今回だけそんなこと言われるんだ?」

は?今なんつった?
それは耳を疑うほどの額だった。私の知る限り運転手の一般的な給与の倍以上、そして先だって彼が前借したのと同じ額だった。それがひと月に懐に入ってきていたのだ。
ちなみに前雇用主は日本人、夫と同じ会社だが帰宅が早い、そして単身赴任に近い状態だった人である。家族の分の運転距離や、残業の多い夫のための拘束時間などを考えると、感覚的に労働は倍近くになっているだろう。
つまり、彼からしたら、労働は倍になっているのに、給料は半分になっているということになる。

会社には一応目安となる規定はあるが、実際に雇うのは個々人である。つまり個人契約なのだから、いくら払おうが他人がとやかく言うことではない。
実際、一時でも気前のよい雇用主についた幸運を、それと割り切れるだけの分別が彼にあったなら、別に問題はなかったろう。ちゃんと貯金もあって、前借することもなかったかもしれない。

問題なのはただ一点。雇用主が変わっているのに、彼が変わってないことだ。
余るほどお金があった時と同じように、欲しい時に欲しい物を買う。夜な夜な遊びに出てぱーっと使う。挙句にこそこそ小銭稼ぎをする。

杜子春か、君は。
残念ながら私は仙人ではないので、雲台峰には連れていけない。
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  [ 雇用主の器(6) ]
2008-07-19(Sat) 09:10:13
一方、事件は別の展開も見せた。

昼間、運転手さんが昼ごはんを食べに行っている間に、メイドさんから「ちょっといい?」と声をかけられた。
こんなことは、それこそ初めてのことだ。

「コーヒーのことだけど…」とおずおずメイドさんは話し始める。

先日私と言い合いになった時、運転手さんは、「コーヒーは客のためだ。」と言った。
「僕がママさんの友だちのところへ行ったらコーヒーが出る。その運転手がうちに来たら、『コーヒー出してくれよ。』と言う。僕は困る。」と言われたのだ。

それを彼女が察したのかどうかはわからない。私がコーヒーを買わなくなったので、一言言っておこうと思ったらしい。

「私たちも、ここに来た他の運転手さんも、コーヒーは飲んでない。運転手さんにはお茶しか出してない。コーヒーは、Hさんが一人でたくさん飲んでる。」

それから彼女も、堰を切ったように話し始めた。

私の意向だという理由で、Hさんにいろんなことを禁じられていたこと。うちの自転車を買い物に使うこと、使っていないマットレスを使うことなどなど。
(メイドさん達は自分達の食材などを、近所の店やバイクの物売りから調達している。)
しゃべり好きでうるさいが、相手をしないと機嫌が悪くなって怖いこと。
そして、しばしばセクハラを受けていたこと。胸やお尻を触られるらしい。
くしくも、私が彼の逆鱗に触れたのと同じ言葉を彼女は使った。いわく「彼は威張っている」と。

あまりのことに、しばらく声が出なかった。
自転車やマットについて、私はそんなことを禁じた覚えはないと言うと、彼女は満足そうにうなずき、もし何かあったら自分に直接言ってほしいと言った。
私も同じように、あなたも直接言ってね、とお願いした。

それで私の納得がいくわけがない。きっと憤懣やるかたない顔をしていたのだろう。彼女はあわてて付け加えた。
「Hさんには絶対言わないでほしい。言ったら、自分達が仕返しされる。私は今、ママさんに言えたことで、十分にすっきりしたから。」

うちのメイドさんはホントに謙虚で、初めの頃しばらくは、私と口も利けなかった。運転手さんがそんな彼女の意向を伝えてきたりしたこともあったので、てっきりうまくいっているのだと思っていた。うかつだった。

改めて、メイドという人たちの置かれている立場の理不尽さを思う。
それに対して何もできない自分に腹が立つが、何もできないことを「仕方ない」と認めることだけはしたくない。

次の日さっそく、双方が揃っている前で、「自転車、使っていいよ。」とメイドさんに言う。「他に使いたいものがあったら言ってね。」とも言う。ちょくちょくメイド部屋をのぞいて、「問題ない?」と声をかける。

国の歴史や人の価値観は、簡単には変わらない。まずは、私は味方だと、彼女達に信じてほしいと思う。

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  [ 雇用主の器(5) ]
2008-07-18(Fri) 11:24:18
彼のぶすっと攻撃には、もう慣れている。
疲れてたり、面白くないことがあったりするとすぐ顔に出る。その代わり、根が明るいのですぐに忘れる。放っておけばいつも勝手に浮上してくるので、そのまま放っておいたが、さすがに今回は粘る。

そして3日目。
朝、5分くらい遅刻してきた。
おまけに、子ども達を学校に送って戻ったら、「今から2時まで抜けていいか?」と言う。我が子の学校の面談があるらしい。その日私は1時に学校に行く用事があったし、そんなことを直前になって言われても困る。「12時半までならいいよ。」と言って出した。

はぶてる(山口弁で「拗ねる」「不機嫌になる」)気持ちもわかるが、それはそれ、これはこれである。
午後、車中で2人になった時に「時間には遅れないでね。」と言うと、彼は堰を切ったように一気にまくし立てた。

「毎晩気になって眠れないんだ。昨日もビールを飲んだけど3時まで寝られなかった。だから朝起きられなかった。
僕は絶対に、人前でお金を見せたりしていない。第一、給料は右から左(ローン支払いのため)で、見せるお金がどこにあるって言うんだ。ほら、財布の中にもこれしか入ってない(と言って自分の財布の中身を見せる)。もしかしたら、ママさんが買い物や支払いを僕に頼むところを見て、誤解したのかもしれない。
インドネシア人は嫉妬深い。みんな雇用主に不満を持ってるのに、僕は仲良くやってるからねたまれてるんだ。
もうそんな職場では働けない。奥さんとも話したけど、職場を変わろうかと思う。」

彼の「辞める」攻撃にも慣れた。
引越したばかりの頃は、一軒家の管理に自信がなかったし、大家さんが彼の紹介だったこともあり、辞められたら困ると思って引き止めもした。運転手以外の仕事をしてもらっているということで、手当もつけた。でもこの頃は、大家さんとの意思の疎通も何とかなってきたし、待遇面でも誠意は尽くしてきたつもりだ。
こっちが折れなければならない負い目はない。

眠れないほど悩んでいることはかわいそうだとは思う。だが、それは彼自身が越えなければならない壁だと、私の中で突き放す。自分にやましいことがないのなら、堂々としていればいい。
「わかった、私はHさんを信じるよ。」と受ける。

ところが、私がどうしてもネタ元を吐かないことに、彼はさらにカッとなったようだ。

「ママさんが教えてくれないのなら、こっちにも考えがある。僕はいつでも、ガソリンを抜いたり、車を売って逃げたりすることだってできるんだ。」

雇用主を脅すか。
そうまで言われては私も黙っていられない。たぶん、1年半で初めて、強い調子でことばを投げ返した。ただし、同じ失敗は繰り返さないよう、言葉を選びながら。

「私、言いたくない。
私、あなた、信じる。あなた、気をつける。それで問題ない。人、嫉妬したい、どうぞ嫉妬してください。
あなた、(仕事)替える。あなた、いい(状態になる)、人、また嫉妬する。また替える。嫉妬する、替える、嫉妬する、替える。もしそうしたいなら、どうぞ。
私も夫もあなたが好き、だけど、仕方ないね。」

選択肢がものすごく狭いので、勢いのわりにはカタコトなのがかっちょ悪い。

私の言いたいことがどこまで伝わったかはわからない。が、彼はそのまま黙り込んだ。<いったいいつまでつづく?>
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  [ 雇用主の器(4) ]
2008-07-15(Tue) 14:08:24
ややこしかったのは「大金自慢」の件。

彼は他人の前でお金を見せびらかしたことなどない、という。
でも、景気よく他人におごったり、お金を貸したりはしている。そのことから、大金を持っていると思われてるかもしれない、とは言った。
それは自分の好意の表れで、「困ってる奴におごってやるのはいけないことか!?」と言う。

難しいところだが、それが他の日本人雇用者の耳にも入っている以上、結果的に見せびらかしているのと同じだ。そういう行為を自重してほしいのだが、自分はいいことをしていると思っている彼には、なかなかこちらの意図が伝わらない。

もどかしくなった上に、語彙の少ない私は、ここで不用意に直接的な表現を使った。
「あなた、威張ってると思われてるのよ。気をつけて。」

途端に顔色が変わった。しまった、と思ったが遅かった。

そうだった。プライドの高いインドネシア男性にとって、陰口を叩かれることは、人前での叱責と同じくらい屈辱的なことだったのだ。

以前、友人の運転手が自ら辞めた後に、彼が働いていた不正の証拠が出てきたことがある。友人がそれを別の友人に愚痴ったところ、まわりまわってそれが当の運転手本人の耳に入った。その運転手及びその家族はたいそう憤慨し、その噂の出所を突き止めて警察に訴えると息巻いていたらしい。

私はその話を知っていた。彼らがそのくらい世間体や評判を気にする傾向にあるのだということを知っていた。なのに、うっかり失念していた。

そこから彼の関心は、不注意な自分の行為よりも、もっぱら陰口の犯人探しに注がれることになった。
それを誰が言っていたかにこだわり、私の話は一切耳に入らなくなった。

実はこういう、他人からの伝聞をもって責めるやり方は、私の最も嫌いなやり方のひとつではある。
直接「君は○○だ」と注意されるのではなく、「みんなが君を○○だって言ってるよ」と言われるのは、とても気色が悪い。私自身もその経験が売るほどある。
だからそういう言い方をせざるを得ない時は、できるだけ具体的に、「こういう場面でこういう人たちにこういう風に言われていたから、気をつけた方がいい。」ということにしている。その方が、言われる相手だって気をつけようがあると思うからだ。

ただし、それは分別ある大人の場合。言われた自分を省みるより、言った相手を責めることに執着する相手に、ニュースソースを明かせるはずがない。

彼はさんざん粘ったが、どうにも私が口を割りそうにないとわかると、がっくりと肩を落として帰っていった。私自身も、結果的に自分でもイヤだと思う方法で彼をやり込めた形になり、後味が悪かった。

そしてその翌日から、彼の得意な「必殺不機嫌攻撃(とにかく一日ぶすっとしている)」が始まった。

おっさん
分別ある大人ってこんな感じかしら
すみませんまだ3歳でした
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